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「太一車」の民族学的評価と農業の未来   小鴨地区振興協議会太一車歴史文化部会

2022年6月11日

「太一車歴史文化部会」の北村隆雄会長と廣谷啓一さんは「ウクライナ情勢や円安で肥料や燃料が値上がりする中、有機農業に注目が集まっている。今こそ中井太一郎の功績に注目し『太一車』が世界で活躍するときだ」と口をそろえて語ります。
中井太一郎は倉吉市(当時は久米郡小鴨村)の出身で明治時代に稲作革命に一生を捧げた人です。日本で初めて「田植定規」を考案し全国に正条植えを普及して歩くとともに、中耕除草機「太一車」を開発して雑草取りという重労働から米作り農家を開放、稲作の生産性向上に大きな足跡を残しました。
 彼の功績を広く知っていただくため、出身地である倉吉市小鴨の人たちが「太一車歴史文化部会」を設立し、顕彰活動を続けています。
 太一車の機能は「人力で、正条植えの稲の間を爪車で土を掘り起こし雑草を引き抜くことにより腰を曲げないで除草できるようにしたこと、併せて肥料をかき混ぜることにより肥効が増し収量増を期待することができる」と北村会長は語ります。廣谷さんは「田植定規により正条植えを可能にし、かつ、「太一車」による農作業の効率化・生産性の向上と、日本型稲づくりの基本をつくったのが中井太一郎」と郷土の偉人の功績を語ります。
 明治25年に特許を取得した「太一車」は、規則正しく植えられた稲の間の除草をする、人力で動く農耕具です。耐久性や軽量化などの改良を重ね、現在でも日本及び海外の稲作地帯で活躍しています。現在では無農薬・減農薬農業の拡大や肥料高騰の影響で、この「太一車」の使用が日本及び海外でも広がっています。
 昨年5月に農林水産省は「みどりの食料システム戦略」を策定し、2050年までに目指す姿として「CO₂ゼロミッション化の実現、低リスク農薬への転換、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減、有機農業の取組面積の割合を25%に拡大」等を取組の方向として示しています。これは、農林水産業や地域の将来も見据えた持続可能な食糧システムの構築が目的です。
 特に環境保全を目的に有機農業については「次世代有機農業に関する技術を確立」することに取り組むとしています。農業機械や農薬、化学肥料を前提に営んできた農業は、ウクライナ情勢などが農業経営に大きな影響を及ぼす状況を見ると、大転換が必要な時期になっているように見えます。
明治時代に発明され130年たった今でも農民や農業改良に波及し続けており、「太一車」の民俗学的評価及び歴史的価値は、神奈川大学日本常民文化研究所が発行する民具に関する日本で最も歴史のある月刊誌「民具マンスリー」(2022年3月)に、北村会長執筆の「特許から見る鳥取倉吉の『千歯』から『太一車』産業への変遷」が紹介され、学会の中で高く評価されていることからも明らかです。今後の有機農業の拡大や国際情勢への対応力を考えると、「今の時代こそ『太一車』の出番ではないか」と思えてきます。

北村隆雄さん 北村さん著「太一車ー近代稲作の父・中井太一郎ー」と民具マンスリー

明治時代製造の太一車 原理は現在も変わらない 倉吉博物館所蔵

現在販売されている中耕除草機

北村隆雄さん(左)と廣谷啓一さん

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