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雪の力      中永廣樹さん・吉事の会

2021年2月11日

 鳥取市の因幡万葉歴史館で2月11日、旧正月を祝う和歌の講座があり、元鳥取県教育長の中永廣樹さんが和歌のなかで新年や雪がどのように詠われてきたかを語り、「日本人は雪に、さまざまな力を感じてきた」と紹介しました。およそ30人が聴講しました。
 因幡万葉歴史館は因幡国司で、万葉集の編者とされる大伴家持を顕彰しています。その国司時代、家持は旧正月に「新(あらた)しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事(よごと)」と詠み、この歌で万葉集の最後を飾っています。これにちなんで、因幡万葉歴史館は毎年、旧正月に万葉茶会を開き、新年を寿いでいます。今年は2月14日ですが、コロナ対策でイベントを分散することになり、ひと足早く和歌の講座を開きました。
 中永さんの講座は、万葉集・古今和歌集を題材に「新年・雪の和歌を味わう」がテーマです。中永さんは万葉集から5首、古今和歌集から3首を選び、持論をまじえて、それぞれの〝味〟を紹介しました。
 そのなかから。「新しき年の初めに豊の稔(とし)しるすとならし雪の降れるは」(万葉集・葛井諸会)。新年に雪が降るのは害虫駆除になり、水にも恵まれるので、豊作の前触れと喜ぶ歌です。ドカ雪は別として、降り積もる雪は好まれ、奈良時代の歌人は梅を雪に、平安時代の歌人は桜を雪に見立てて、よく歌づくりをしたといいます。
 「梅の花降り覆う雪を包み持ち君に見せむと取れば消(け)につつ」(万葉集・作者不詳)。梅の花を覆っている雪をそのまま包んで持っていこうと手に取ったら、たちまち消えてしまったという歌です。現代人なら非科学的であり得ない話となるところですが、「それでは人の心はわかりません。雪を恋する男女と考えれば、どうでしょう」と中永さん。
 「年のうちに春は来にけり一年(ひととせ)を去年(こぞ)とや言はむ今年とや言はむ」(古今和歌集・在原元方)。古今和歌集の一番に載っている歌で、新年が来る前に立春になってしまったが、今は去年と言えばよいのか、今年と言えばよいのかというものです。中永さんによると、万葉集最後の家持の歌が、新年と立春が重なった元日に詠まれたものであることを意識して、この歌がトップに採用されたとみています。古今和歌集が続万葉集と言われたゆえんです。
 「万葉集は素朴で写実的であるのに対し、古今和歌集は理屈っぽくて理知的。明治30年代に正岡子規は古今和歌集を批判し、短歌の革新に乗り出しました」。中永さんの講義は和歌・短歌史まで及びました。
 講座の後は吉事の会(井上好子代表)の抹茶サービスがありました。

中永廣樹さん

講座の後の一服

万葉歴史館の近くにある大伴家持の歌碑

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