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ベールを脱ぐ幻の歌人      杉原一司歌集刊行会

2020年5月21日

 23歳の若さで亡くなり、幻の歌人と言われた八頭町出身の杉原一司。没後70年の今年、待望の歌集が発行され、全国の短歌愛好者で、その歌づくりの研究が始まりました。5月21日の命日には関係者が墓参し、杉原一司研究の進め方などを語り合いました。
 杉原一司(1926~1950年)は旧丹比村南の生まれです。地元の小学校で教員をするかたわら、モダニズム歌人の前川佐美雄(日本芸術院会員)に短歌を学びます。その縁で、前衛短歌の旗手・塚本邦雄らと同人誌「メトード」を創刊します。杉原の早世で7号で廃刊になってしまいましたが、現代短歌の端緒になる歌集だったといわれています。
 盟友・杉原と塚本は、杉原が歌づくりの手法を示し、塚本が作品にしていく役割だったそうで、杉原は定型にとらわれることなく、句割れや句またがり、カタカナなどを多用したといいます。杉原の死後、塚本は自らの第1歌集「水葬物語」を杉原への追悼歌集として発表していますが、「私の作品のバックボーンを作り上げてくれたのは彼である」と、盟友をたたえています。杉原が幻の歌人と言われたゆえんです。
 今年はちょうど、杉原没後70年、塚本生誕100年。記念の年です。杉原の長男・ほさきさんはじめ、いとこの安藤隆一さん(元県立公文書館長)、郷土史家の内田克彦さん(元県国際交流センター常務)、鳥取大学地域学部准教授の岡村知子さんらが、歌誌や資料を集め、杉原一司歌集をつくりました。収録した短歌は108首、妻玲子さんの短歌も36首。これらの資料は県立図書館で6月16日まで展示されています。出版記念フォーラムも予定されていましたが、新型コロナウイルスで中止になりました。
 高校教師の小林貴文さん(青谷町)は、月刊歌誌「みずたまり」に2年半にわたって杉原一司の歌評を発表してきました。フォーラムがなくなり、その報告ができないのは残念ですが、「杉原は未完ながら、歌は若々しく、熱い言葉がほとばしっており、とても魅力的」といいます。歌集の発行を機に、全国の若手歌人のなかで杉原の歌を再評価する動きが広がっているそうです。
 「塔」の選者で県歌人会顧問の池本一郎さんは「鳥取県に日本の歌壇史に残る人材がいたことを誇りたい。残念ながら、知る人ぞ知るの存在になってしまい、研究が進まず、後が続かなかったが、今回の歌集発行と再評価を通じて、歌づくりに親しむ人をもっと増やしていきたい」と話していました。
 歌集刊行会は杉原と塚本の間で膨大な書簡のやり取りがあったことを受け、今後は現代短歌の黎明期を探りたいとしています。

杉原一司の墓前で歌集発行を報告する刊行会のみなさん(合掌するのは杉原ほさきさん)

在りし日の杉原一司

杉原一司歌集

杉原一司の歌「ヒヤヤケキ彫刻ダイにかけのぼりマナコまで石化シテヰタル犬」を住川英明さん(鳥取大学教授)が書に

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